これは駅弁でなく、熊本県阿蘇市で国道57号に面した道の駅「道の駅あそ」の売店で売られるお弁当。しかし2022年10月からのJR九州の駅弁キャンペーン「第13回九州駅弁グランプリ」にエントリーされた。道の駅あそはJR豊肥本線の阿蘇駅に隣接するため、昼間の列車で改札を出れば買いにいくことは難しくない。調製元は下記のとおり、JR九州の観光列車「あそぼーい!」に特製車内弁当を卸しており、鉄道とのつながりはある。
この道の駅で売られる多種の弁当と同じく、見た目はスーパーの惣菜。この丸く小さなプラ容器に白飯を詰め、阿蘇あか牛の焼肉を同心円状に並べ、温泉卵をカップで据え、もやし、だいこん、たかな、わさびを添える。赤身の弾力性を、いろんな添え物で変化を出しながらいただける、小粒でも味わいを楽しめる牛丼。
これは駅弁でなく、熊本県阿蘇市で国道57号に面した道の駅「道の駅あそ」の売店で買えたお弁当。上記の弁当「あか牛丼ミニ弁当」と、同じ調製元と容器であり、同じ場所で同じように販売。熊本県立阿蘇中央高校では2013年から、家庭科の実習等を活用して生徒がレシピを考え、試作品から改善点を見つけながら商品化を目標に取り組む「高校生プロデュース弁当」を実施、これまでも阿蘇のあか牛を使う幕の内弁当から寿司やサンドイッチまで様々な弁当を、道の駅あそで商品化してきたそうな。この時はこの弁当1種類のみが、高校の名を冠して売られていた。
食品表示ラベルでの品名は「あか牛あかワイン煮込み丼」。小さく丸いプラ容器に白飯を詰め、阿蘇あか牛の牛すじ肉の赤ワイン煮込みで半分ほど覆い、黄色と赤のパプリカにピーマン、しめじのバター炒め、かぼちゃで半分を覆う。一緒に買った物同士を比べると、こちらのほうが安いのに見栄えも味にも彩りがあり、あちらより良い物に思える。ストーリー上もこちらを九州駅弁グランプリにエントリーしたら、話題を呼べたのではないかと思う。
2020(令和2)年8月8日の豊肥本線全線開通に合わせて発売。熊本駅と別府駅を結ぶ観光特急列車「あそぼーい!」の車内で販売されるサンドイッチ。朝の別府行き列車が立野駅に着くと、車内の売店に入荷する。
耳あり食パンにマヨネーズを塗り、あか牛を使う牛メンチカツのソース漬け、レタス、紫キャベツの千切りをたっぷり挟んだサンドイッチを、ラップに包まれて惣菜向けプラ容器に収まり、鉄道の短距離きっぷのようなデザインで商品名と値段を表示したシールを貼る。中身は1切れでも、とても分厚く食べ応えあり。カツサンドなのに肉が従にも思えるみずみずしさ。調製元は阿蘇カルデラ内の豊肥本線宮地駅近く、阿蘇神社の門前町にある古民家レストラン。
平成時代に二度の長期運休に見舞われている豊肥本線は、今回は2016(平成28)年4月の熊本地震により不通。立野駅〜赤水駅で阿蘇外輪山の斜面が大きく崩れ、線路と国道57号の約200メートルを消し去ったうえ、黒川に架かる国道325号の、全長約200メートルの阿蘇大橋を破壊した。被災後に道路はほどなく国により、ミルクロードと俵山トンネルルートで複数の迂回路が整備されたうえ、崩壊現場を迂回する約4kmのトンネルを含む、延長約13kmの復旧ルートも示された。一方で豊肥本線については話題も発表もなく、代行輸送も平日の通学輸送に限り実施、経路は寸断され、復旧なのか廃線なのか不明なまま時が経過した。
2020(令和2)年8月8日の豊肥本線全線開通に合わせて発売。熊本駅と別府駅を結ぶ観光特急列車「あそぼーい!」の車内で販売されるお弁当。朝の別府行き列車が立野駅に着くと、車内の売店に入荷した。
おしゃれな軽食向けに見えるパルプモールド容器を固定する黄色いスリーブには、あそぼーい!のキャラクター「くろちゃん」がたくさん描かれる。中身は白飯を牛豚そぼろ、桜でんぶ、錦糸卵、高菜で覆い、エビフライ、タコさんウインナー、パスタ、とり天、スマイル型のポテト、プチトマト、ミニゼリーという、楽しい内容。それでいながら、列車公式サイトを見ると阿蘇産こしひかり、あか牛そぼろ、阿蘇高菜を使うといい、実は阿蘇にこだわっていた。2023年3月に新たな「くろちゃん弁当」(1,200円)へリニューアル、3営業日前までの事前予約限定の車内弁当となった。
豊肥本線は4年4か月の不通を経て、元通りに復旧された。道路は2本の迂回ルートに加えて、2020(令和2)年10月に延長3,659mの二重峠トンネルを含む約13kmの北側復旧ルートが開通し、さらに元のルートも開通して復興した。昭和時代は熊本と大分を結ぶ交通路で、天草と阿蘇と別府を結ぶ観光路でもあった鉄道は、車社会化と道路の整備と度重なる不通で平成時代に役割と信頼を失ったのだろう、全線開通後の豊肥本線は、熊本と大分の都市圏輸送と「あそぼーい!」を除き、乗客がほとんどいないように見える。
※2023年3月補訂:リニューアルを追記2019(平成31)年1月の京王百貨店の駅弁大会、同月の阪神百貨店の駅弁大会、2月の鶴屋百貨店の駅弁大会で販売。3百貨店の共同企画として、3社ずつの駅弁屋の中身を詰め合わせた「肉づくし」「海鮮づくし」を、各1,700円で販売した。こちらは「肉づくし」のほうで、スリーブに写真と文字で記すとおり、宮城県(仙台駅)こばやしの牛たん弁当、鹿児島県(鹿児島中央駅か出水駅)松栄軒の黒豚めし、山梨県(小淵沢駅)丸政のかつサンド(鶏)を、小さな正方形で1トレーずつ詰め合わせた。
各社の既製品の詰合せなので、味はその点で定評のもの。鶴屋では見かけなかった「海鮮づくし」は、北海道(旭川駅)旭川駅立売商会の海鮮丼、北海道(小樽駅)小樽駅構内立売商会の海の輝き、石川県(金沢駅や加賀温泉駅)高野商店のかにすしを詰め合わせたそうな。
2016(平成28)年の訪問時に、大畑駅で買えた惣菜。普通列車かつ観光列車の「いさぶろう」がこのスイッチバック駅で切り返す際、駅舎の軒先に「大畑駅を愛する友の会売店」が出ていて、様々な食べ物を台売りしていた。弁当のようなものはこの「栗赤飯」のみで、その名のとおり赤飯に3個のクリを置いてパック詰め。人吉駅弁の栗めしより大きい、甘味を加えず本来の甘さで勝負するクリなど、市販の惣菜ではなかなか出会えない味。
JR肥薩線の人吉駅〜吉松駅は、明治時代に最先端の土木技術による鉄道の峠越え。昔も今も35.0キロメートルに中間駅はわずか3駅。標高107メートルの人吉駅を出て球磨川と別れ、25パーミルの登り坂で大畑駅。スイッチバックとループで、つまり切り返しと周回路で高度を稼ぎ、30パーミルの登り坂にあえいで標高537メートルの矢岳(やたけ)駅。以後は延々と25パーミルの下り坂が続き、途中の真幸(まさき)駅でもスイッチバックで高度を下げ、標高225メートルの吉松駅へ至る。
当時の汽車で2時間半、今のディーゼルカーでも片道1時間を要すそんな隘路は、1927(昭和2)年10月に海岸沿いの鹿児島本線に代替されて、ここは裏道に。しかし以後90年の時を経て、国道と高速道路が峠を抜き、貨物や客や集落が消えても、この鉄路はJR九州の路線として存続している。「しんぺい」「いさぶろう」と名無しの列車が合わせて一日3往復走り、観光客が明治の風景を味わうことができた。
肥薩線は2020(令和2)年7月の豪雨により、八代駅〜人吉駅が大破、人吉駅〜吉松駅も一部被災して不通、ごく一部の区間を除き代行輸送も行われていない。大畑駅には列車もバスも来ないので、商品の販売も行われていないと思う。
※2021年3月補訂:現況を追記2017(平成29)年3月から熊本駅〜人吉駅で運行される観光列車「かわせみやませみ」で、土休日に車内の売店で販売されるお弁当。竹皮編みの容器に巻かれる掛紙は、該当の観光列車と同じデザイナーが手掛けたもの。中身は丸い握り飯3種と、同じ大きさのコロッケと厚焼き玉子とお煮しめと、マス甘露煮となますゼリーなど。サイコロ状の根菜類などの具材が豊富な、熱々の汁物カップも添付され、これが郷土料理の「つぼん汁」。
中身は春と夏と秋で少し変わる。高価と、かなり揺れる狭い指定席とテーブルでの食べにくさが気になったが、例えば旅行商品で提供される車内での郷土料理であれば美しい印象。調製元は球磨川沿いの農村レストラン。値段は2017年の発売当時で1,300円、2020年の購入時で1,600円。
「かわせみやませみ」は、JR九州と約30年間ともにあるデザイナーを起用した観光列車群、JR九州の表現における「D&S列車」のひとつとして、普通列車向けディーゼルカー2両を改造のうえ運行を開始。登場前年にすべての優等列車が廃止された肥薩線の八代駅〜人吉駅で、観光列車と都市間列車を兼ねたようなダイヤで、一日2〜3往復が球磨川沿いを走る。
肥薩線は2020(令和2)年7月の豪雨により、八代駅〜人吉駅が大破、人吉駅〜吉松駅も一部被災して不通となった。運転できない「かわせみやませみ」は、人吉駅〜吉松駅の「いさぶろう」「しんぺい」とともに熊本を離れ、8月から福岡県内の鹿児島本線の門司港駅〜博多駅で、土休日に一日1往復が走り始めた。売店の営業はあるが、弁当は売られていないらしい。
※2021年3月補訂:現況を追記2017(平成29)年3月から熊本駅〜人吉駅で運行される観光列車「かわせみやませみ」で、土休日に車内の売店で販売される商品。見た目は駅弁そのものでも、駅で売られる弁当でなく、「おつまみ」とあるとおり弁当でもない。鉄道車両や他の商品とデザインを揃えた掛紙を巻く容器の中身は、鹿肉のソーセージ燻製、鶏のもろみ焼き、きくらげの佃煮、大根の焼酎漬け物、そば揚げ、味付け卵など。そんな内容はきっと、球磨焼酎などの酒類と合わせ、おつまみとしていただく内容だろう。価格は2017年の発売時で焼酎セット1,100円、単品800円、2020年の購入時で球磨焼酎付き1,210円、単品900円。こうやって酒抜きでも買えて、軽食にもなった。調製元は人吉市街の蕎麦屋さん。
肥薩線は2020(令和2)年7月の豪雨により、八代駅〜人吉駅が大破、人吉駅〜吉松駅も一部被災して不通となった。明治時代に宮崎県や鹿児島県に達した初めての鉄道であり、昭和時代までは熊本県を結ぶ急行列車の利用者もあった肥薩線は、国道の改良や高速道路の開通で乗客を失い、球磨川や矢岳越えの沿線はもともと人口も産業も乏しく、すでに観光客の選択肢でしかない路線になっていた。バスでなくタクシーで運べる人数の顧客のみ代行輸送し、再開の見込みがない不通を続ける。この商品も再開の見込みが立たないと思われる。
※2021年3月補訂:現況を追記2017(平成29)年3月から熊本駅〜人吉駅で運行される観光列車「かわせみやませみ」で、土休日に車内の売店で販売される商品。普通のケーキ屋やカフェで買えるような、小さなケーキ2個を白い紙箱に保冷剤付きで収めた商品。これにも鉄道車両や他の商品と同じようなデザインの掛紙を巻いていた。今回の中身は苺のタルトとガナッシュで、人吉球磨の苺(ゆうべに)を使ったそうな。車内で売る弁当やおつまみともども、四季で中身を変えるそうな。調製元は人吉市街のケーキ屋さん。
2020(令和2)年7月の豪雨災害による肥薩線の不通で、旅行者は人吉盆地に公共交通で行けなくなったように見える。実は九州自動車道の人吉インターチェンジに高速バスのバス停があり、熊本や宮崎や鹿児島へ向かう高速バスが毎時2〜3本も止まり、ここと人吉市街を結ぶ周遊バスが日中なら毎時1本ほど来る。地元の方々が熊本へ行き来するのならば、鉄道よりも安くて便利で困らない。旅行者の活用は、運行時刻の入手難と高速バスの複雑な利用制限により、相当の知識と技術がないと無理だろう。
人吉に観光列車が来なくなり、観光列車の運行を通した話題の提供がなくなり、逆に被災地への観光は不謹慎という報道被害を受けたり、さらに政府の新型コロナウイルス感染症対策で人の移動そのものが非難される世にある。このような観光商品は、存在が許されないレベルの厳しい環境に置かれていると思う。
※2021年3月補訂:現況を追記熊本駅と人吉駅を結ぶ観光列車「SL人吉」の車内で販売される弁当として、その運行開始日である2009(平成21)年4月25日に発売。竹皮の包みに、熊本県人吉市にある青井阿蘇神社の写真でデザインした掛紙を巻く。中身はラップに包まれた白御飯と赤飯の握り飯が各1個と、サバ竜田揚、シイタケとニンジンの煮物、玉子焼、たくあん。人吉の食材を多用したことが掛紙の一覧表で分かる。
宇都宮駅その他で明治10年代の駅弁創成期のものと伝えられる内容を再現したのかと想像したらそうではなく、人吉が誇る国宝の青井阿蘇神社で1200年前から行われているという「おくんち祭り」で食べられていた「赤飯、煮しめ、つぼん汁」を弁当で再現したものだという。汽車の旅を演出できるよう風体が創り込まれて、いい感じ。安価なのに風味も食感も安っぽくない。2017年までの販売か。
「SL人吉」は、1988年8月から2005年8月まで豊肥本線の熊本駅と宮地駅との間で運行されていた観光列車「SLあそBOY」の8620形蒸気機関車と50系客車3両を叩き直して登場。深刻な故障を起こした大正生まれのSLを、2年と4億円をかけて事実上造り直し、客車のデザインも一新のうえ、線路が比較的平坦で機関車の負担にならない球磨川沿いの区間で再稼働したもの。もとは肥薩線の矢岳駅で保存されていたSLであり、過去にも里帰りと称して年に何日かは、この区間で営業運転を実施していた。
※2019年8月補訂:終売を追記熊本駅と宮地駅を結ぶ観光列車「あそぼーい!」の車内で販売される弁当として、その運行開始日である2011(平成23)年6月4日に発売。クラフト紙のようなボール紙の容器に、この列車で使われるキャラクター「くろちゃん」でデザインした掛紙を巻く。中身は黒米混じりの御飯の上に、赤牛の牛肉煮、ハンバーグ、レタスや水菜やトマト、目玉焼きで覆い、鶏唐揚、ポテトフライ、ライチを添えるもの。
ハワイのどんぶりで東京でもおなじみの「ロコモコ」を、阿蘇の食材でこの観光列車のイメージに仕立てたようだ。楽しい駅弁が出てきたなと思う一方で、この区間で「あそBOY」廃止から「あそぼーい」登場までをつないだ観光列車「あそ1962」と運命をともにして買う機会を持てなかった「阿蘇うなり弁当」と同じく、列車と運命をともにしてしまう弁当だとも思う。調製元は宮地駅徒歩10分の郷土料理屋。2017(平成29)年までの販売か。
「あそぼーい!」はパノラマシートやラウンジ、親子向けにデザインされた座席「白いくろちゃんシート」や売店「くろカフェ」に図書室や木のプールなどを備える、デザイナー仕様の観光列車であり観光車両。この列車は1988年の製造後に「オランダ村特急」「ゆふいんの森」「シーボルト」「ゆふDX」と転用を繰り返し九州で流浪の旅を続けるキハ183系1000番台4両編成の、最後のおつとめになるのかどうか。
※2019年8月補訂:終売を追記八代駅から肥薩おれんじ鉄道の列車で1時間強。水俣市は熊本県の南端で東シナ海につながる八代海に面した、人口約2万人の工業都市。農漁村へ20世紀に肥料工場が進出し工業都市へ変貌、しかし工場排水の有機水銀中毒により世界に知られる公害都市にもなってしまった。駅弁は1960年代から1980年代まで八代駅の駅弁屋の支店があり、その後にも地元の弁当が売られたが、2004年の九州新幹線の開通でなくなった。1926(大正15)年7月21日開業、熊本県水俣市桜井町一丁目。
2003(平成15)年の訪問時に水俣駅で買えた、駅弁風なお弁当。仕出し弁当向けのビニール容器に、仕出し弁当用の掛紙をかける。中身は日の丸御飯に、出汁巻玉子や肉団子に朱色のウインナーや蒲鉾や鯖塩焼のおかずで、やはり仕出し弁当そのまんま。駅弁とは一風異なる雰囲気と味を楽しめる。法事や祭事などで団体に出されるような仕出し弁当が、個人で気軽に楽しめるという点に価値を感じることができるか。
このお弁当は、水俣駅構内のキヨスクの店頭に置かれた、弁当惣菜用ケースで販売されていたもの。2004年3月の九州新幹線の新八代駅〜鹿児島中央駅の開業で、新水俣駅の開業により水俣駅には特急が来なくなるうえに、並行在来線の経営分離によりJR線でもなくなるため、まもなくここでの弁当入手はできなくなることが見込まれる。新水俣駅には、駅弁ができるのかどうか。
博多駅から新幹線で1時間強。2004年の九州新幹線の開業で、水俣駅から約4km離れた場所に新水俣駅ができ、在来線の鹿児島本線を転換した肥薩おれんじ鉄道の駅もできた。この駅では弁当の販売を見たことがないが、2011年の九州新幹線の全線開業の頃に予約制の弁当ができたことがあったらしい。2004(平成16)年3月13日開業、熊本県水俣市初野。
熊本駅からJR豊肥本線の列車を乗り継いで約1時間半。阿蘇市は熊本県の北東部で山の中にある、人口約2.4万人の市。阿蘇山の外輪山と世界最大級のカルデラの北半分を占め、大自然が観光客を魅了する。駅弁は1950年代から1980年頃まで売られた。1918(大正7)年1月25日開業、熊本県阿蘇市黒川。