鹿児島中央駅から新幹線で2駅25分。出水市は鹿児島県の北西端で八代海に面した、人口約5万人の城下町。一万羽を超えるツルの飛来や武家屋敷で知られる工業都市。駅弁は1930(昭和5年)から細々と売られたが、九州新幹線開業以降に飛躍、今では鹿児島県内に加え、東京や大阪や九州各地に駅弁が出荷される。1923(大正12)年10月15日開業、鹿児島県出水市上鯖淵。
2023(令和5)年10月に出水駅と鹿児島中央駅で発売、同月からのJR九州の駅弁キャンペーン「第14回九州駅弁グランプリ」にエントリー。かつての出水駅の名物駅弁「えびめし」を、今回は「昔ながらの経木の香りが楽しめる懐かしい駅弁」に復刻した。長方形の容器は経木折ではなく、経木のふたで香りを付けた。スリーブではなく掛紙を使い、調製印のようなマークを描くなど復刻の感じを出した。
中身はを錦糸卵とグリーンピースと刻みしいたけを載せたえびめしと、鶏照焼、かまぼこ、玉子焼、エビフライ、さつまあげ、タケノコやごぼうなどの煮物、なます、煮豆、つぼ漬。昭和の幕の内駅弁の御飯をえびめしにしたような、今では人気を得られず数少ないタイプの構成を、内容と見た目で出してきた。イベントでなく駅でも売る弁当であるからか、例えば経木折をひもで十字にしばるような本格的な復刻駅弁にはならなかったが、雰囲気は十分に感じられる。鹿児島では黒豚の強力な駅弁に囲まれて、ちょっと淋しそう。
1968(昭和43)年に出水駅で発売。1959(昭和34)年の発売とする資料もあるが、当時の資料にこの名がみられない。昭和時代の出水駅を代表する駅弁。かまぼこ型かトンネル型の独特な形状の容器を、発売当時の絵柄を守る、エビを古めかしく描いた昔ながらの掛紙で包む。中身はエビの混ぜ御飯に、エビと錦糸卵を載せてグリーンピースを散らし、エビフライ、さつま揚げ、鶏肉煮、ごぼうやしいたけなどの煮物、大根の酢の物、煮豆、つぼ漬けなど。ほのかな海老の香りを楽しめる。
価格は2010年時点で900円、2014年時点で930円、2019年10月から950円、2023年時点で1,080円、2024年時点で1,150円、9月のJR九州の駅弁キャンペーン「第15回九州駅弁グランプリ」へのエントリー時で1,200円。
現在の出水で海老を感じることはほとんどない。しかし、かつて出水沖などの八代海(やつしろかい)ないし不知火海(しらぬいかい)では、桁打瀬船(けたうたせぶね)によるエビ漁が盛んで、江戸時代には海老の炭火焼が島津家に献上されていたといい、今も焼海老の土産物はある。出水駅の駅弁は九州新幹線の開業後、鹿児島中央駅や博多駅や九州各地、大阪や東京でも売られるようになり、この駅弁にも出水でなく「鹿児島名物」という前置きが付いたが、エビを名乗る全国的に珍しい駅弁がここにあることで、郷土をとても密かに刻み続ける。
※2024年9月補訂:値上げを追記出水駅の駅弁「えびめし」の、2005(平成17)年時点での姿。見た目は上記の15年後と変わらないが、掛紙には「出水名産」と書いてあり、中身の仕切り方も異なる。調製元の社名も違う。2004(平成16)年3月に九州新幹線が新八代駅から鹿児島中央駅までの区間で開業するまでは、出水駅の駅弁といえばこの「えびめし」であった。以後は黒豚の駅弁を量産し、出水駅より鹿児島中央駅で駅弁を売るようになり、この「えびめし」の影が薄くなっていった。
九州新幹線の博多駅・鹿児島中央駅間のうち、新八代駅・鹿児島中央駅間という、末端で需要の少ない区間が先に開業したのは、自民党王国である鹿児島県の政治力の賜物だと思う。しかし従来の鹿児島本線は、八代駅より北では列車が複線の線路を時速130キロで走れるが、八代駅より南の線路はほぼ単線で最高時速110キロの隘路。最終的に新幹線の全線を整備するが、お金がない、政府の限られた鉄道向け予算で全線の着手が難しければ、所要時間や輸送力をより向上できる区間から造る手はある。
1973(昭和48)年に「整備新幹線」が誕生してから30年。在京の大新聞はいつまでも利益誘導政治の象徴として叩き続けるが、理論上その全線を1年で整備できる金額を、政府が自動車道路の整備に毎年注ぎ込む点を不思議と叩かない。九州でも高度経済成長期の昔に計画した新幹線がいつまでもできず、特急が走る在来線の改良も1990年代が最後になったが、高速道路は1966(昭和41)年に政府が描いた大の字型のネットワークが完成し、1986(昭和62)年に現れた外周ルートの整備が着実に進められ、そこに載らない実質的な高速道路の接続もどんどん進んでいる。
※2021年3月補訂:新版の収蔵で解説文を一部移行出水駅の駅弁「えびめし」の、2003(平成15)年時点での姿。上記の2年後との違いは、掛紙の調製元表記のフォントと、中身の仕切り方くらい。
上記の駅弁「えびめし」が、2014(平成26)年1月の京王百貨店の駅弁大会と阪神百貨店の駅弁大会で売られたもの。以後の両百貨店の催事でも売られている。出水駅弁「えびめし」の復刻版をうたうが、掛紙の絵柄は今もあまり変わらないことと、容器が駅弁として一般的な長方形なので、復刻されたという感じがしない。ふたと側面が経木の容器に、エビ入りの炊込飯を詰め、煮物や肉団子や漬物を添えていた。今はほとんど使われない薄手の掛紙のみが、昔の駅弁を感じされる点か。価格は2014年の購入時で900円、2015年は950円、2016年は980円。
出水駅弁のえびめしの駅弁大会専用版で、京王百貨店の駅弁大会にて実演販売されていたもの。長方形の容器に、催事用を感じる上げぶたタイプの透明なふたをして、商品名を書いた赤いボール紙の枠にはめる。中身は海老の混ぜ御飯に有頭海老を2個置き、薩摩揚げや山菜も載せて、煮物数点と鹿児島の豚骨を添えるもの。
現地版と比べて見栄えが向上し、そして風味が薄れた印象。現地の見栄えがしないほうは、食べて意外に美味いまた買おうとなりそうで、こちらは殻付き海老や骨付き豚肉の食べにくさもあり、そうならないと思う。催事場では九州新幹線ではなく肥薩おれんじ鉄道の駅弁を名乗っていたが、その駅は駅員のいない駅で窓口も売店も改札もなく、かつてJR鹿児島本線だった頃の駅舎が駅弁工場に転用されている。
2017年5月補訂:終売を追記出水駅弁を名乗る特製えびめしの、また別のバージョン。今度はボイルが3切れと小海老が3個、花蓮根に奈良漬に山菜と錦糸卵とエビおぼろ。これを詰めた小柄な長方形の容器に抗菌シートをかけて透明なふたをして、現地やJR九州や調製元公式サイトで紹介するものとまったく違うデザインを持つボール紙の枠にはめる。味は好みだが、存在に気分を害した。現存しないと思われる。
※2017年5月補訂:終売を追記2008(平成20)年2月3〜8日に、宮城県仙台市内の百貨店である藤崎本店で開催された駅弁催事「全国駅弁大会とうまいもの市」で、実演販売されたお弁当。長方形の容器に透明なふたをして、窓の開いたボール紙の枠にはめる。中身は茶飯に有頭海老2匹とむきえび3匹を並べ、さつま揚げと花れんこんと山菜で彩り、とんこつと煮物を添えるもの。
この内容は、スリーブの絵柄や容器の形状を含め、出水駅の駅弁である「えびめし」でない、催事のための贋作に見える。出水駅や鹿児島の駅弁屋であったはずの調製元が、このシーズンは粗製濫造の弁当群を全国各地にばらまいていて、駅弁ファンはみんながっかり。この商品のエビやとんこつは、鹿児島の駅弁よりもうまかったと思うが、実演販売のブースに客がいなかった。