掛川駅から天浜線(てんはません)の列車で約45分。2005年の合併で浜松市の一部となった二俣は、それまでは天竜市であり、静岡県の西部にて単独で市制を敷く城下町であった。天竜浜名湖鉄道の本社と車庫がある天竜二俣駅では、イベントの一環として駅弁が断続的に売られた後、2009年の夏頃から駅舎の売店での販売が定着した。1940(昭和15)年4月1日開業、静岡県浜松市天竜区二俣町阿蔵。
「天竜どんこちらし」の冬季版として、またはおそらく2011(平成23)年1月の京王百貨店の駅弁大会での実演販売に向けて、2010(平成22)年11月20日に発売。天竜二俣駅では3月頃まで土休日に販売するとし、以後も同様に売られる模様。木目柄の容器に、表面に弁当名と天竜川の風景イラスト、裏面に沿線マップを印刷した正方形の掛紙をかける。
中身は茶飯の遠州での呼び名「さくら御飯」の上に、肉厚のシイタケを指す「どんこ」とウナギ蒲焼を2枚ずつ載せ、アサリやニンジンや錦糸卵で彩り、大根桜漬とわさび漬とゼリーを添えるもの。一言で表せば、うなぎ弁当。残念ながら今回のウナギはゴム草履で、しかし椎茸の出汁はそこそこ、アサリが意外にいい感じ。
天竜浜名湖線はかつての国鉄二俣線。第二次大戦中の1935(昭和10)年から1940(昭和15)年にかけて、両端を東海道本線に接続する形で掛川〜新所原の全線が開業した。東海道本線の浜名湖付近が爆撃で不通になった際の迂回路として建設されたというが、その割には路線の規格が単線で勾配も曲線もきついという、どう見てもローカル線であり、本気でそんなことを考えていたのか個人的には疑問に思う。利用の低迷で1980(昭和55)年の国鉄再建法により特定地方交通線、つまり廃止対象線に選定されたため、1987(昭和62)年3月に静岡県や沿線の市町が出資する第3セクター鉄道へ転換された。
上記の駅弁を、現地で買い求めたもの。茶飯の上にシイタケ煮4個、煮ホタテ3切れ1個分、アサリ数個、蝶々型のニンジンを置き、わさび漬けミニカップや2色のゼリーなどを添えていた。名前も中身も値段も、掛紙の絵柄も少し異なるが、雰囲気に変わりはない。2014年2月時点で土休日に一日10個の販売。2015年時点では3個以上での予約販売。
一年半前の掛紙で天竜川に描かれていた川下り舟が、ここでは帆掛船になっている。2011年8月17日(水)14時17分頃、静岡県浜松市天竜区二俣の天竜川で、第十一天竜丸(船頭2人、乗客21人)が岩場に乗り上げ転覆し、幼児を含む乗客4人と船頭1人が死亡、乗客5人が負傷した。事故の原因は船頭の操船ミスとされ、救命胴衣の非着用が人的被害発生の原因とされた。これを受けて、63年間続いていたという川下り舟は廃止、 鉄道会社では社長の引責辞任と常勤役員の増強を実施し、国土交通省は全国の川下り船事業者に対して安全運航の徹底を指示した。
この観光川下り舟は2003年から、地元の観光協会が第3セクターの交通事業者である天竜浜名湖鉄道に施設を貸与し運行を委託し、市と観光協会で赤字を補填することで存続させていた事業であった。天竜浜名湖鉄道ではチラシやホームページなどで川下りをアピール、本社と車庫がある天竜二股駅での乗船券の販売やマイクロバスでの送迎を実施するなど、ローカル鉄道との相乗効果が見えだした頃の事故と撤退であり、残念に見えた。駅弁に添えられる調製元のチラシにはまだ、天竜川舟下りの写真と文字が残されていた。
2009(平成21)年の秋に発売。2014年2月時点で土休日に一日10個の販売。黒いトレーを入れた正八角形の竹皮編み柄ボール紙製容器に、天竜産というマイタケの炊込飯、煮物類、天ぷら、肉団子、焼き魚、オレンジなど。御飯以外の中身は一定しないらしい。知名度も内容も風味も地味だけれども、とてもていねいに作られている感じがした。
ローカル線で企画した駅弁はたいてい、すぐ消える。あるいは最初から続ける意志がない。しかしここでは週末の販売が何年も続いているうえ、売り切れで買えなかったという個人ブログなどでの報告もよく目にする。駅弁が必要であったり売れるような駅や路線や列車にはとても見えないのに、ここではどういう人に駅弁が買われて、その存続が支えられているのだろうか。
天竜浜名湖鉄道の終着駅で、JR東海道本線との接続駅。1987(昭和62)年3月の国鉄二俣線の転換時に建てられた、国鉄改めJRの東海道本線とは別に構える駅舎にうなぎ屋が入り、ここで注文販売されるうなぎ弁当が駅弁とされる。1936(昭和11)年12月1日開業、静岡県湖西市新所原三丁目。
新所原駅の駅弁と言われたり紹介されている持ち帰りお弁当。ホカ弁向けの発泡材製容器に、白御飯を詰めてウナギの蒲焼きを載せてタレをかけるもの。価格は2011(平成23)訪問当時で「半身一切れ」で1,050円、「大一本入り」で1,575円、この「並」が1,260円。2017(平成29)年時点で「一切れ入り」1,300円、「満足一本!」2,100円、この「二切れ入り」が1,600円。店内で丼として食べることもできる。火曜定休。
注文生産なので出来立てであり、タレの風味は本当に薄く、白身魚のような食感と風味にウナギの品質の良さを感じた。ただ、容器も販売方法もホカ弁そのものであり、鉄道グルメではあるが駅弁と見なすには無理があるような気もする。
※2017年7月補訂:値上げを追記新所原駅のうなぎ弁当の高いほう。見た目は6年前の「並」と変わらない感じ。この間にウナギの価格が暴騰し、ウナギ駅弁の価格も全国各地で2倍くらいに値上がりしたから、これも6年分の変化だろうか。うな重のホカ弁。飯とタレと鰻だけの中身も、白身魚のような食感と風味も、変わらず健在だった。
新所原駅のうなぎ弁当の安いほう。他のものとは容器の大きさから違い、かわいらしいサイズのウナギ蒲焼が白飯の上に載る。飯とタレと鰻だけの中身も、白身魚のような食感と風味も健在。
2017(民国106)年7月21〜24日に、台湾の台北市内のコンベンション施設「台北世界貿易中心(台北世界貿易センター)」で開催された展覧会「2017台灣美食展」での「第3回鐵路便當節(鉄道弁当祭)」で販売された商品。日本の鉄道会社10社と、韓国、スイス、台湾2社の駅弁が、ここで展示販売されていた。
天竜浜名湖鉄道の駅弁は、赤いプラ容器に白飯を敷き、ウナギ蒲焼2切れを載せ、玉子焼と浅漬けを添えていた。これに天浜線の路線図や鰻丼や浜名湖などを描く掛紙を巻いた。台湾で初めて食べた、ただの鰻重。新所原のうなぎ弁当にも、同じ掛紙を巻いてあげたくなった。