釧路駅から花咲線(根室本線)の普通列車で1時間弱。厚岸町は北海道の東部で太平洋に面する、人口約9千人の港町。江戸時代から漁港として栄え、厚岸湖のカキは特産である。駅弁は厚岸駅の開業とともに創業した調製元が、今は駅前で販売。「かきめし」は駅弁と地域の名物である。1917(大正6)年12月1日開業、北海道厚岸郡厚岸町宮園町。
1963(昭和38)年頃に厚岸駅で発売とされるが、1960年代までの資料にその名がないため、実際には1970(昭和45)年かその前年の発売か。厚岸駅で名物の駅弁であり、北海道や日本を代表する駅弁のひとつであり、厚岸や道東の名物でもある。現地では鉄道の旅客に加えて、バイクでのツーリング客にも親しまれる。掛紙の絵柄は昭和時代や国鉄時代から変わらない、カキ貝殻のシルエットの商品名と、カキが林立するかつての厚岸湖の風景と、厚岸の略地図。
プラ製ながら形状は昔ながらの駅弁らしい、平たい長方形の容器に、カキの煮汁で炊いた茶色の濃い御飯を敷き、同じく茶色に染まるカキ、アサリ、つぶ貝、ふき、しいたけを並べたり散らし、福神漬けとタクアンを添える。磯の香りを通り越して潮臭い濃厚なエキスが具にも飯にもぎっしり詰まり、そして食感についてコクを持つ、これぞ厚岸の味覚だと観光客へ強烈にアピールする内容。価格は2004年の購入時で900円、2005年時点で950円、2017年から1,080円、2023年時点で1,190円。
厚岸駅の駅弁はかつて、ホーム上での立ち売りや、駅の売店「キヨスク」で買えた。のちに立ち売りは夏季限定となり2000年頃に終了、キヨスクでの取り扱いも2011年6月に取り止めたのち、2015年秋にキヨスクそのものがなくなった。厚岸駅の駅弁は駅前弁当となり、駅前の小屋で不定休にて予約または注文により販売される。製造委託や実演販売により、東京での購入は容易であるが、現地で唯一の販売店は2020年代になるとほとんど開いておらず、電話もほとんどつながらないようで、幻の駅弁となりつつある。
※2024年8月補訂:発売年の考察と販売状況を追記上記の駅弁「かきめし」を、デパートの駅弁大会で購入したもの。2005(平成17)年までは現地のものと実演販売とでは、掛紙に記載する調製元の電話番号が異なり、風味にも差があったが、この頃までに現地でも催事でも、同じような姿と中身と風味のものが買えるようになった。製造委託による実演販売でないスーパーやデパートで売られたり、首都圏のJR東日本の駅では一年中販売する駅弁売店もあり、これらでも現地の味がよく再現されていると思う。商品名は「氏家かきめし」や「厚岸氏家かきめし」となることがある。価格も現地と同じで、2010年の購入時で980円、おそらく2017年から1,080円、2023年時点で1,190円。
※2023年4月補訂:値上げを追記上記の駅弁「かきめし」を、東京駅の駅弁売店で購入したもの。2020年代にはこの駅弁はJR東日本管内の、東京、品川、新宿、上野、大宮駅などの首都圏や、東北上信越地方の主な駅で、一年中売られる商品となった。一方で北海道の厚岸駅では、木曜定休の駅前販売をうたうも、金曜に行くも土曜に行くも閉店で買えず、幻の駅弁、現地で買えない駅弁となっている。ネット上には、予約や問合せようにも電話に出てくれないという報告がみられる。その電話番号はいつしか、この掛紙のように下四桁「8090」のものに替わった。調製元の所在地は厚岸町字名改正事業により2006年11月に変わった。
浅い長方形の容器に、カキの煮汁で炊いた御飯を敷き詰め、カキ煮4個にフキやシイタケやアサリで覆い、たくあんと福神漬けを添える。そんな内容は昭和時代からおおむね変わらないようにみえる。しかしカキの量や香りは減り、濃厚な臭いや口が痛くなる味は消えたと感じる。都会や催事で売りやすい、買われやすく食べられやすい、製造委託に向いた内容になったのだろう。他の駅にない内容のカキ駅弁である個性は、残っていると思う。
現地での収穫に約20年間失敗し続けるうちに、どうも厚岸の特産はカキでなくなったよう。掛紙の写真に残る厚岸湖での巨大なカキの林立はとうの昔に失われ、キヨスクも立ち売りもなくなった駅に残る町特産品のショーケースやチラシからカキが消え、厚岸蒸留所のジャパニーズウイスキーを推す。厚岸の鉄道や駅の存続も危なく、バイク乗りなど道路の客で安泰と思った駅弁もこんな現状。これでは2030年代にこの駅弁は、北海道に残らないかもしれない。
厚岸駅弁の実演販売で売られる商品。厚岸駅の名物駅弁「かきめし」について、カキの個数を倍の8個にするなど具の量を倍にして、価格を約1.5倍にしたもの。御飯と容器と掛紙は、通常版と同じ。従前から裏メニューとして存在していたようだが、2015(平成27)年までに表メニューとして売り始めた。これは食べ応えがある。現地の厚岸駅でも今は、作り置きの駅弁を駅で売るのではなく、駅前の店舗で注文し購入するようなので、これもそこで買えるのではないかと想像している。
2022(令和4)年8月16日から9月5日まで、首都圏と長野エリアと新潟駅のJR東日本の駅のコンビニ「ニューデイズ」などで販売。2021年10月12日から11月1日までの第1弾、2022年4月19日から5月9日までの第2弾に続き、今回は鉄道開業150周年を記念して、駅弁会社が監修する「駅弁風おにぎりシリーズ」として、仙台駅「網焼き牛たん弁当」、厚岸駅「かきめし」、大船駅「しらす弁当」の3種類を、コンビニおにぎりにして販売した。今回の調製は、埼玉県さいたま市のJR東日本クロスステーションが担当か。
袋の絵柄はかきめしの掛紙から引用し、本物の見本写真も掲載。カキ煮を1個仕込んだ、ひじき入り炊き込みご飯を、海苔で巻く。内容は厚岸駅弁のかきめしと同じでも、痛いや臭いとも表現できるあの濃厚な風味はここになく、具にも飯にも甘味のみがあったが、さすがにこれは仕方がない。
上記の駅弁「かきめし」を、2005〜2006年の駅弁大会シーズンにスーパーで買ったもの。どうもこのシーズンから製造委託のやり方を変えたようで、現地と催事で掛紙に記載される調製元の電話番号が同じになったほか、実演でない販売が広く行われるようになった。厚岸駅で買える駅弁を他所で再現して、自社や地域のPRに励むことは、悪くないと思う。
※2020年5月補訂:解説文の全面改訂上記の駅弁「かきめし」を、2004〜2005年の駅弁大会シーズンに百貨店の駅弁催事で買ったもの。厚岸駅弁「かきめし」が、京王百貨店駅弁大会に9年ぶりに帰ってきた。しかし中身や価格は現地と同じでも、写真を見比べれば一目瞭然である具の少なさや小ささ、そして写真では分からない風味の薄さで、現地版とは別物だった。しかし、道東の小さな駅にはこのような駅弁があるという事実を、都会の買い物客や業者さんに宣伝する役割は、果たしていたと思う。
なお、2007年1月の京王百貨店の駅弁大会では、御飯を炊飯業者からの調達ではなく店主が会場で直接炊くなど、現地版に近い調製方法になり、風味もそれに近付いたらしい。
※2020年5月補訂:説明の前段を整理厚岸駅の名物駅弁「かきめし」について、本州など内地のスーパーやデパートでの駅弁催事で売られたバージョン。外観や中身や価格は、現地の駅弁「かきめし」と同じであるが、味はあっさりしていて、良く言えば都会的で悪く言えば磯の香りが足りない。どうも御飯に普通の茶飯を使っているらしく、それで味に差異が生じるのだろう。
それより疑問なのは、現地販売人と実演販売人の関係がいまいち明らかでないこと。電話番号が前者の「0153(52)3270」に対して後者が「0153(52)5668」であり、掛紙は意匠こそ似るものの地図が180度回転していたり調製元の名称が異なったり。とある百貨店で実演販売人に電話番号の怪を質問したら、3270が偽物などと言われてしまった。2005年内にこの電話番号での実演販売はなくなったと見える。
※2020年5月補訂:終売を追記