和歌山駅からJRの電車で約1時間半。五條市は奈良県の中部で吉野川が流れる、人口約3万人の宿場町。かつて街道の陸運と河川の水運の結節点として、商業や木材工業で栄えた。駅弁があるとは紹介されないが、五条駅の駅前食堂から全国チェーンに発展した柿の葉寿司屋が、まるで駅弁屋のように駅舎内に店舗を構え、寿司や弁当が買える。1896(明治29)年10月25日開業、奈良県五條市須恵三丁目。
五条駅のキヨスクのような大きさの店舗で買えたお弁当。チェーン展開する調製元の、季節の弁当なのだろう、菜の花とシイタケと玉子焼とアナゴとおぼろを巻いた、普通の太巻きがプラ容器に1本8切れ入っていた。東京や福岡でも買えるのかもしれないが、奈良県五條が本店の調製元であり、駅での見た目は駅弁屋と変わらないので、ここに収蔵。同じ和歌山線の橋本駅にも、同じような店舗がある。
五条駅のキヨスクのような大きさの店舗で買えたお弁当。チェーン展開する調製元の、季節の弁当なのだろう。松花堂タイプの4区画に、ちらしずし、太巻き2切れ、鯛寿司2個、柿の葉寿司2個を収めていた。まるで駅弁のように車内でも、この駅に来る通勤タイプの電車でも食べやすい。
奈良県内を中心に、京阪神地区や全国の大都市で買える柿の葉寿司。これは奈良県五條市の「柿の葉すし本舗たなか」の商品で、現在のJR五条駅前で1903(明治36)年に創業した駅前食堂が夏の間に作っていた柿の葉すしがルーツ。和歌山線の五条駅と橋本駅の中に直営店があるほか、奈良県内を中心に関西や東京などで30店舗以上をチェーン展開し、他の取扱い店舗とネット通販で広く売られている。
酢飯にサバの切り身を貼り、柿の葉で四角く巻いた柿の葉寿司を7個、専用の紙箱に詰める。駅弁屋を含めいくつもの業者が手掛ける柿の葉寿司のうち、この「たなか」は葉の巻き方を含め、穏やかで柔らかい印象。奈良県内や関西地方に数多くある柿の葉寿司屋のうち、比較的大手とされ知名度のある「たなか」「ヤマト」「平宗」「ゐざさ」は、いずれも駅弁屋と紹介されることはまずないが、駅で駅弁のように売られる光景をよく見ると思う。価格は2001年時点で790円、2015年時点で864円(さば)ないし1,005円(さば・さけ)、2017年時点で980円(さば)ないし1,085円(さば・さけ)。
飯と魚を葉で巻いた原始的な携帯食にみえる柿の葉寿司の、発祥や由来を確定することはもう無理だと思うが、農林水産省「うちの郷土料理」によると、江戸時代中期に紀州の漁師が熊野灘の夏サバの塩締めを吉野川沿いの村へ売りに出かけたことを有力な由来とする。明治時代には駅弁にもなり、北陸や関西で現存するが、不思議と人気や定番の駅弁にならず、各地で個性が生まれることもなく、これを主力や名物とする駅弁屋は、吉野口駅の柳屋を除き、ついに現れなかった。
※2023年1月補訂:写真を更新し解説文を手直し2001(平成13)年12月15日に購入した、たなかの柿の葉すしの紙箱。上記の2022年のものと、何も変わらない。この時は南海電車の和歌山市駅で購入。JR和歌山駅の1番ホーム上にも店舗があり、まるで和歌山駅弁のように買えた。
「たなかの柿の葉すし」の、3種詰合せ版。上記の7個入りと同じつくりの紙箱に、「鯛」2個、「さけ」2個、「さば」3個を詰める。柿の葉で包むため見えない中身について、ここでは中身の順番を記したカードを封入するので便利。
「たなかの柿の葉すし」の、14個入り版。ここでは「鯛」4個、「さけ」4個、「さば」6個で14個の柿の葉寿司が、酢飯に魚の身を貼り付けて柿の葉で巻いたものが、専用の紙箱にぴったり収まる。2023年1月時点で、この14個入りの他に7個入りや21個入り、この3種詰合せの他に2種詰合せや単品、この紙箱の他に木箱や特製木桶で、58種類の詰合せが公式サイトに掲載されていた。