京都駅から特急列車で1時間強。綾部市は京都府の北部に位置する、人口約3万人の内陸工業都市。郡是製糸(グンゼ)と大本教の街。山陰本線が舞鶴線を分ける駅では、大正時代から21世紀に入るまで、ホーム上で駅弁が売られていた。1904(明治37)年11月3日開業、京都府綾部市幸通り東石ヶ坪。
フタも底も枠も経木の容器に、カニを描いたボール紙のふたをかける。中身は酢飯の上に素朴な切り味の錦糸卵と、日本海松葉蟹とうたうカニの足の身とフレークを敷き詰め、グリーンピースで見栄えを整える。ふわりとした甘酢の酢飯にやはりふわりとした卵とカニは、香りほのかで柔らかく、経木の香りも加わり京らしい上品なカニ寿司駅弁に仕上がった。2004年12月時点で存廃不詳。どうも人知れず消えた模様。
綾部駅の幕の内弁当。駅弁屋さんの名前が入ったセミオーダーの弁当容器はやや大きめで、ボール紙の箱の中に御飯とおかずの白いトレーがひとつずつ入る。中身はたっぷりの御飯に、焼き魚に厚めの蒲鉾と玉子焼、焼売に肉団子に白身魚フライ、かしわとこんにゃくの煮付けにひじきなど。
ごく普通の幕の内系弁当に見えて、味はもちろんおかずの大きさと種類は確保されているので、駅弁にネガティブなイメージを持っていなければこの価格にも納得がいく。2004年12月時点で存廃不詳。どうも人知れず消えた模様。
この地域の山陰本線は、1986年の城崎電化、1994年の智頭急行開業、1996年の山陰本線京都口電化で長距離列車が一掃され、四方向から鉄路が集まるジャンクションである福知山駅でさえ駅弁業者が消えるほどなので、駅も都市部のような橋上駅舎になってしまった綾部駅での駅弁販売は厳しいだろう。
1922(大正11)年の調製と思われる、昔の綾部駅弁の掛紙。同年に上野公園で開催された平和記念東京博覧会で英国の皇太子殿下が来日されたことを記念して、全国各地の駅弁屋が同じデザインの記念掛紙を使用したもの。周囲に日本と英国の国旗を配し、右に駅弁の名前、左下に調製元、下部に日英の歓迎文、上部の2枠は広告枠。
1930(昭和5)年5月17日の調製と思われる、昔の綾部駅弁のとても小さな掛紙。調製元は21世紀と同じ鶴寿軒。昭和初期のデフレの影響か、価格が35銭から30銭に訂正されている。