東京駅から普通列車を乗り継いで2時間強。笹子の峠は江戸と甲斐と信濃を結んだ甲州街道で最大の難所であり、明治時代に現在の中央本線の建設で全国最長の隧道が抜かれ、後に国道や高速道路のトンネルが建設された。峠の前の笹子駅では、明治時代から笹子餅なる峠の力餅が立ち売りされた。現在は駅での販売はないが、駅前の調製元での販売が健在。1903(明治36)年2月1日開業、山梨県大月市笹子町黒野田。
1905(明治38)年に笹子駅で発売。ハードカバーの書籍を模したような、厚紙製容器のふたを開けると、一口サイズの粒あん入りよもぎ餅が10個お目見え。価格は2010年代で820円、2014年4月から860円、2019年1月から900円、2020年時点で1,000円。
甲州街道の難所であった笹子峠は、明治時代に開通した中央本線にとっても難所であり、列車が急勾配を克服するために笹子駅はジグザグに線路が配置されたスイッチバックの駅となった。列車の進行方向を変えるための長い停車時間を利用して、ホーム上で笹子餅の立ち売りが行われてきた。
今はパワーがありブレーキが利く電車の時代となり、スイッチバックは1966年に廃止された。駅も1985年には駅員のいない無人駅となり、笹子餅の販売も駅では行われなくなった。大型ダンプトラックが途切れなく走る国道20号に面した駅前の営業所では今も、笹子餅を買うことができる。
※2022年1月補訂:写真を更新し値上げを追記上記の笹子餅の、中身と価格が半分になったもの。笹子餅が笹子駅や他の駅の売店や特急列車の車内販売で売られることはなくなったが、かつてこれが中央本線とともにあったことが、掛紙の「中央線 笹子駅構内 塩山駅構内」の文字からうかがえる。よもぎ餅5個を経木と、同じ色をした紙製の竹皮に包み、掛紙を巻いてしばる姿には、書籍型の通常版にない古風な味わいが感じられる。
価格は昭和50年代で6個入り300円、2010年代で410円、2014年4月から430円、2019年1月から450円、2020年時点で500円。2019年7月の購入時、団体でまとめて購入したら、笹子駅のホームまで持ってきてくれた。調製元が構内営業の権利を持っていると、そんなことができる。
※2022年1月補訂:写真を更新し値上げを追記これは駅弁や駅売り銘菓でなく、笹子餅の調製元が製造し販売する酒まんじゅう。今はおそらく笹子のみどりやと笹一酒造でしか買えないと思う。つぶあんを使う白い饅頭の、生地に加えてあんこの中にも、笹子駅近くの酒蔵「笹一酒造」の酒粕が詰まる、ふんわり感に優れたスイーツ。紙箱も包装紙もない製造直売スタイルの簡易包装は、販路が大月や甲府にもあった頃から変わらない。価格は2010年代で510円、2014年4月から540円、2019年1月から600円、2020年時点で700円。
2022(令和4)年10月1日に購入した、笹子餅の掛紙。大月駅開業120周年を記念して、この日に限り調製元と大月駅前と勝沼ぶどう郷駅前で、5個入り500円の笹子餅をこの赤い掛紙で販売した。包装や中身や味は、普段のものと同じ。掛紙の絵柄そのものも、普段の5個入りと同じに見えて、観光案内や注意書きなど、文字情報は今のものに差し替えられた。
2019(令和元)年7月20日に購入した、笹子餅の掛紙。令和時代の商品なのに、下記の2015年のものよりさらに古い、どう見ても昭和の国鉄時代のもので、「¥200」の値段を塗りつぶして使用していた。
2015(平成27)年4月5日に購入した、笹子餅の掛紙。掛紙のロゴマーク「アルプスライン305」は、1988(昭和63)年のJR東日本のキャンペーンのもので、「¥300」の値段を塗りつぶして使用していた。四半世紀も前の掛紙を使っていてびっくり。経木で中身を包む包装も加わり、とても古風に見えてくる。
2015(平成27)年4月5日に購入した、笹子餅のパッケージ。下記の2013年のものや、上記の2021年のものと、中身を含めてまったく同じ。価格は異なるが、これはパッケージには記載されない。
2013(平成25)年9月29日の調製である、笹子餅のパッケージ。見た目は2002年当時と何も変わらないが、比べてみるとデザインを更新、2008年5月発売の杉良太郎「矢立の杉」に関する内容が加わった。現地には歌碑が建てられたという。
2002(平成14)年9月7日の製造である、笹子餅のパッケージ。現在と同じく、書籍のように開くパッケージの表紙から背表紙を経て裏表紙までの部分に、商品名から宣伝文まで必要な情報を記す。
昭和40年代のものと思われる、昔の笹子餅の掛紙。1968(昭和43)年の全国菓子大博覧会での金賞受賞が記されるため、販売はその後だろう。明治時代から汽車の旅客に親しまれる名物に、いまさら賞を塗っても仕方がないとは思うが。
昭和30年代のものと思われる、昔の笹子餅の掛紙。掛紙で紹介される笹子トンネルは、1902(明治35)年に完成した当時は全国最長のトンネルであり、現在も下り線用として現役である。絵柄のように丸い形はしていない、馬蹄形と呼ばれる昔ながらの形を持つ鉄道トンネル。
大正時代かその前後のものと思われる、昔の笹子駅弁の掛紙。収集者は1920(大正9)年のものとし、掛紙にそう書き記した。笹子隧道と汽車の煙を描く。5銭という価格から、時期を特定できないだろうか。
1927(昭和2)年2月18日の調製と思われる、昔の笹子駅弁の掛紙。絵柄は上記のものと同じで、インクの色が異なる。
新宿駅から特急かいじで約80分。2005年11月に3市町村が合併してできた甲州市は、山梨県の中部で甲府盆地の北東側斜面に位置する、人口約3万人の市。ブドウその他果樹の栽培やワインの生産で知られるエリア。塩山駅に駅弁はないが、かつて笹子駅の構内営業者がここでも営業した。1903(明治36)年6月11日開業、山梨県甲州市塩山上於曽。