新宿駅から中央本線の特急列車で約2時間。北杜市(ほくとし)は山梨県の北西端を占める、人口約4万人の市。甲斐駒ヶ岳や八ヶ岳や金峰山や茅ヶ岳に囲まれた高原に、農地が広がり、山や緑に観光客が来る。駅弁は大正時代から売られ、平成時代に売店へ「小淵沢駅の名物は駅弁です」と掲示するほどの名物となった。1904(明治37)年12月21日開業、山梨県北杜市小淵沢町。
これは駅弁でなく、東京のデパートの地下食料品売り場で買えた惣菜。毎年1月に日本最大級の駅弁大会を実施する京王百貨店では、小田原駅や小淵沢駅などの駅弁を中地階の食品売り場で一年中取り扱う。調製元は小淵沢駅の駅弁屋で、「駅弁の丸政特製」と記す紙帯に駅弁マークを入れていた。中身は商品名のとおり、茶飯を福島県産豚の生姜焼きで覆い、紅生姜、玉子焼、かまぼこ、シイタケ、ニンジンを添えたもの。山梨から運ばずとも、店内で作れそうだと思った。これはどうも、8月16日から28日まで京王百貨店新宿店の各階で実施した「美味いもの満載福島編」の一環で販売した企画商品だったようだ。
2017(平成29)年1月の京王百貨店の駅弁大会でのみ販売か。正方形の鶏照焼丼、正方形の牛肉煮丼、長方形のおかずや漬物を、長方形のプラ容器に詰めて、商品名を書いた紙帯で留める。今回の京王でひっそりと集めて輸送販売していた、価格を1,000円に統一した各地の駅弁のひとつか。そのためのやっつけ作に見えるが、それでも具の味と種類が確保されている感じなのは、さすが小淵沢駅の駅弁屋。少なすぎる牛肉はともかく、いずれの肉も炭火の香りと締まる味があった。
秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2012(平成24)年秋の新商品か。掛紙に明記されるとおり、3区画の容器に、甲州ワインビーフ使用の牛肉すき焼きチャーハン、フジザクラポーク使用の甲州のカツ丼、甲斐味鶏使用の鶏飯を詰め、漬物なども載せる。「3種の肉の競演!」な若者向けB級駅弁。しかし個人的には、肉の量がちょぼちょぼ、味がしょぼしょぼで、力不足を感じた。2年間ほどの販売か。
2013(平成25)年の夏までに発売か。長方形の容器に「農林48号」の白御飯を敷き、フジザクラポークの豚焼肉を貼り、きんぴらごぼう、じゃがいも、柴漬けを添える。この駅弁の名前「ビー・ビーキュー フォーティーエイト」は、バーベキュー風の焼肉で「BBQ」と、使用するコメの品種の「48」を組み合わせたものであるが、間違いなく2010年代に日本国内で社会現象になった少女アイドルグループ群の名称を意識したものだろう。京王百貨店駅弁大会への輸送駅弁としての出品を取り上げた週刊誌の記事も、そういう視点で見ていたと思う。価格は2013年の購入時で980円、2015年時点で1,050円。2015年までの販売か。
山梨県北杜市武川町でのみ栽培されているという、武川48(むかわよんぱち)こと農林48号とは、1949(昭和24)年に愛知県の農業試験場で生まれた、多収と食味を特徴とするイネの栽培品種。1958(昭和33)年をピークに昭和30年代には関東地方の主に栃木県で栽培されたが、病気に弱く見栄えが悪いことから、主要な品種にならないまま1968(昭和43)年までにほぼ消え、この武川で縁故米として栽培されていた。これが21世紀に入ってテレビやネットで幻の米やうまい米として祭り上げられるようになり、今では収穫期の直売所へ道路渋滞の列ができるとも記される。おにぎりにすると最高なのだそうで、つまり冷まして食べる駅弁にもきっと合う。この豚丼駅弁では、肉の味の強さもあり、そこまで素晴らしいとまでは感じなかったが。
※2017年8月補訂:終売を追記2013(平成25)年の夏までに発売か。富士山と商品名を目出度く描くボール紙のパッケージに収めた長方形の容器に、白御飯を詰め、山梨県産フジザクラポークの豚焼肉を貼り、サトイモとニンジンと赤カブ漬と玉子焼を添える。おそらく同時にデビューした上記の駅弁「BBQ48」とほぼ共通するつくり。メディアの注目度には大差が付いたが、味は変わらない。2014年に加熱機能付き容器を使う「ほっかほか富士桜豚めし」にリニューアルか。
※2017年8月補訂:終売を追記2013(平成25)年1月の阪神百貨店の駅弁大会の実演販売でのみ販売された商品。紙箱に梅にぎり、高菜にぎり、骨付き肉、根菜類の焼き物の袋やカップが計4点、力強いデザインの紙箱に収まる。「肉塊」や「ハンバーグ」を名乗る肉は、まるで原始人マンガに出てくるお肉を具現化したような、少々の牛挽肉と骨付き鶏肉を多量の豚バラ肉でぐるぐる巻きにした大きな塊。投下ネタとして最上の出来と手抜きのない味に感心したが、駅やその他の催事で販売されることはなかった。
2010(平成22)年5月から6月までの臨時観光列車「SLやまなし号」の運転に合わせて発売か。当時は6月までの販売とされていたほか、2009〜2010年の駅弁大会シーズンに同じ名前の商品が売られた形跡はある。長方形のプラ製容器を、蒸気機関車や中身のイラストを描いたボール紙の枠にはめる。ふたを開けると電子音が鳴る。中身は白御飯の上を牛肉煮、豚肉煮、焼き豆腐、糸コンニャク、ネギ煮、煮玉子で覆いグリーンピースをふりかけ、巨峰寒天餅と漬物を添えるもの。
商品とSLとの関連が分からないし、肉の強い味付けはさらに甘くなっており、仮にSL列車で売りに来ても他の小淵沢駅弁を買うと思う。ふたを開けると鳴り響く「汽車ぽっぽ」のICメロディーも、音楽が中途半端な所で途切れてしまっており、これでは雰囲気が台無し。
秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2009(平成21)年9月20日発売の新商品。秋季限定の駅弁として翌年にも販売された。下記の駅弁「甲州ワインで育った牛と豚弁当」と同じ構造の容器を使用、中身は左側が白御飯に牛肉とシイタケとタケノコとコンニャクを載せた「甲州牛めし」、右側がマツタケ飯にマツタケのスライスとクリと山菜などと柴漬けを載せた「松茸ごはん」。
コンセプトは間違いなく秋らしいし、調製元の見本写真くらい具が多ければ印象が違ったのだろうけれど、御飯ばかりでおかずの分量と風味に欠ける、実力不足の駅弁。牛飯にワサビを付けるという、不思議な食べ方が推奨されている。価格は2009年の発売時で980円、2014年時点で1,100円、2015年時点で1,200円。2015年頃までの販売か。
※2019年8月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2007(平成19)年秋の新商品か。一緒に買った「甲州ワインビーフの牛めし」と同じ容器とおかずを使い、ボール紙の枠のデザインも背景の色と中身のイラストを変えただけの姉妹品。中身は白御飯の上に、催事場で生まれて現地でも人気になった上記の駅弁「甲州かつサンド」のトンカツを切らずに詰めて、キャベツの千切りを添えるもの。食事としてうまい弁当だが、はたして駅弁として現地に実態があるのかどうか。現存しない模様。
※2014年6月補訂:終売を追記2005(平成17)年の新作と案内されるが、同じ名前の駅弁は昭和末期から存在した。長方形の弱々しい容器を、駅弁の名前と売り文句を描いたボール紙の枠にはめる。中身はアワビの炊込飯の上に錦糸卵と桜肉、つまり馬肉の甘辛そぼろに、アカニシの煮貝と野沢菜炒めと信玄蒲鉾を載せ、椎茸と武田漬けなるきゅうり漬物と紅白ワイン羊羹を添える。
以上、中身はお品書きから引用したが、こう書くと盛り沢山で、しかし分量は控えめ。馬肉はリピーター限定の食材だと思うが、濃い味付けにより良い意味で何の肉か分からなくなり、駅弁催事に出しても大丈夫な商品になった。そんな馬肉の甘辛煮そのものが信州名物のようで、お土産でもたぶん大丈夫。現存しない模様。
※2014年6月補訂:終売を追記秋冬の駅弁大会シーズンに向けた、2004(平成16)年秋の新商品か。円形の容器に透明なふたをかけて、手提げが付いた富士を描くボール紙のパッケージに詰める。中身は薄く薄く敷いた茶飯の上にフジザクラポークの豚焼肉数切れと豚肉団子2個と豚カツ1個を載せ、しめじや野沢菜炒めなどを添えるもの。豚肉の素材が良いのか、冷蔵状態でも柔らかな風味を楽しめるし、具だくさんなので満腹感も楽しめる。しかし豚の名前に由来するとはいえ、小淵沢でなぜ富士の駅弁なのだろうか。現存しない模様。
フジザクラポーク(漢字で「富士桜豚」とは表さない)は、1960年3月から山梨県が姉妹交流を続けるアメリカ・アイオワ州から寄贈されたランドレース種の白豚をベースに、山梨県畜産試験場が1982年から7世代8年かけて改良したブランド豚。地産地消の賜物かブランド力の限界か、生産農家が5軒しかなくほぼ全量が県内で消費されるそうな。代を重ねることによる肉質の低下懸念や、出産頭数が少なく足腰が弱い欠点もあり、これに代わる新品種の開発が2010年度を目標に開始されている。
※2014年6月補訂:終売を追記